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RESEARCH NOTE / DESIRE DISCREPANCY

欲求ギャップは、回数の差だけではない

「性欲の差」「欲求ギャップ」と呼ばれるものには、本人が望む頻度と実際の頻度の差、パートナー同士の欲求の差、そして差によって生じる苦痛があります。研究では、この3つを同じ指標として扱っていません。

初出:2026-08-12 | 最終確認:2026-09-30 | 編集主体:データドキュメンタリー編集部

先に結論

  • actual と desired の差は、「自分が望む頻度」と「関係の中で実際に起きている頻度」の差です。これは、二人の欲求の強さを直接引き算した指標ではありません。
  • dyadic sexual desire discrepancy は、パートナーそれぞれの欲求を測り、その差を扱います。大きさだけを見る方法では、どちらが高いかという方向を捨てることがあります。
  • 差があることと、差が苦痛・葛藤・強制につながっていることは別です。ESSMのposition statementも、SDDの研究は限られ、固い臨床的結論を急げないとしています。
  • 2026年の35日間日誌研究では、幼少期のマルトリートメントを背景要因として、本人とパートナーの性的欲求・性的苦痛の平均値と日々の変動をdyadicに分析しています。関連は複雑で、原因や個人の診断を示すものではありません。
  • 欲求の差とは別に、Körner & Schütz(2026)は関係内で「自分が経験するパワー」「パートナーのパワー」「自分が望むパワー」を分けて4研究・計1,109人で調べています。経験するパワーは性的満足度・性的動機・性的主張性と関連しましたが、望むパワーには一貫した関連がありませんでした。パワーは性的同意や安全性を保証する指標ではありません。
  • Prekatsounaki, Loeys, Enzlin(2025)はmixed-gender 163組を22日間の日誌で追跡し、日々のdyadic sexual desireと、愛着・性・探索のニーズに関する相互作用を扱いました。日々の欲求は、二人が何を与え、受け取り、得ているかと関連しましたが、相互作用の課題操作をそのまま臨床的な介入効果へ読み替えません。
  • 「性欲が低い」「普通か分からない」という心配は、actual/desired差や二人の欲求差とは別の問いです。Park et al.(2026)の公募型オンライン調査では、1,317人のうち752人(57.1%)が性欲への心配を報告し、その中では「低すぎる」と「パートナーと合わない」が多く挙がりました。これは診断率や日本の代表値ではありません。

欲求が刺激の前から生じるか、状況の中で現れるかという「タイミング」は、actual/desiredや二人の差とは別の問いです。反応的欲求の研究ノートで測定と実験の違いを確認できます。

同じ「欲求ギャップ」を3つに分ける

01 / WITHIN PERSON

actual と desired

一人の「望む性交頻度」と、その関係での「実際の頻度」を比較する測定。Willoughby & Vitas(2012)は米国のdating couples 8,096組でこの差と関係の指標を検討しました。

02 / BETWEEN PARTNERS

二人の欲求の差

二人が自己報告した性的欲求の差を測る方法。Jodouin et al.(2021)は229組を対象に、絶対差としてSDDを計算しました。

03 / DISTRESS

差による困りごと

差の大きさだけでなく、苦痛、葛藤、同意、関係の文脈を確認する層。数値上の差があっても、双方が困っているとは限りません。

測定の違いは結論の違いになります。 「回数が合わない」「欲求の強さが違う」「性行為について困っている」は、似た検索語で現れても、研究上は別の問いです。

一次研究はどこまで示すか

Willoughby & Vitas(2012)— actual と desired の差

米国のdating couples 8,096組を用い、本人が望む性交頻度と、関係の中で実際に報告された頻度の差を扱いました。差は関係満足度や安定性と関連しましたが、関連の強さは性別や交際期間で調整されました。この研究の指標を、そのまま「パートナー間の欲求の差」と読むことはできません。

原典:PubMed 21573707 / DOI 10.1007/s10508-011-9766-9

Jodouin et al.(2021)— 二人の欲求差と時間

同性愛・異性愛を含む229組で、35日間の日誌と12か月の縦断調査を行い、二人の性的欲求の絶対差と性的苦痛を測定しました。この研究では、ある時点のSDDが翌日の苦痛を予測し、ベースラインのSDDが12か月後の苦痛を予測しました。逆方向の関連は有意ではありませんでしたが、1研究の結果をすべてのカップルの因果関係や診断に拡張はできません。

原典:PubMed 34426897 / DOI 10.1007/s10508-021-01967-0

Park et al.(2026)— 性欲の低さへの心配とパートナーとの差

Science Vs podcastのソーシャルメディア経由で募集した1,317人の混合方法オンライン調査です。752人(57.1%)が性欲について心配を報告し、その心配の内訳では「低すぎる」が357人(47.5%)、「パートナーと合わない」が319人(42.4%)でした。自由記述には、性欲の低さ、変動、「普通の性欲」とは何か分からないというテーマが現れました。これは本人が感じる心配と認識の幅を扱う研究で、actual/desired差、二人のSDD、診断、治療効果を直接測る研究ではありません。

原典:PubMed 42169615 / DOI 10.1080/0092623X.2026.2666147

Sansoucy, Bergeron & Vaillancourt-Morel(2026)— 背景要因と日々の変動

地域から集めた327組を35日間追跡し、actor–partner interdependence modelで、幼少期のマルトリートメント(childhood maltreatment)の自己報告と、パートナーに向けた性的欲求(PFSD)・性的苦痛の平均値と日々の変動を検討しました。抄録では、本人の経験が本人のPFSDの平均値・日々の変動の低さ、本人の性的苦痛の平均値・変動の高さ、パートナーの欲求平均の高さ、パートナー間の性的苦痛の不一致の大きさと関連したと報告されています。これは「幼少期の経験が欲求差を引き起こす」という因果説明ではなく、個人の診断や現在の安全性を判定する研究でもありません。

原典:PubMed 42411716 / DOI 10.1080/00224499.2026.2694534

Körner & Schütz(2026)— 経験するパワーと望むパワー

恋愛関係にある個人と、woman–manカップル/LGBTQカップルを含む4研究・計1,109人で、本人が経験するパワー(actor power)、パートナーのパワー、本人が望むパワーを分け、性的満足度・性的動機・性的主張性・性的コントロール信念との関連を検討しました。抄録では、actor powerは性的満足度・動機・主張性と関連し、partner powerは主に性的満足度と関連しました。一方、望むパワーには一貫した関連がなく、傾向は特性測定と日々の測定の両方で概ね再現されました。この「パワー」は性的欲求の差(SDD)や同意の判断そのものではなく、4研究の観察的な関連から因果効果・安全性・許可を導くことはできません。

原典:出版社公開本文 / 大学リポジトリ / DOI 10.1080/00224499.2025.2599941

Prekatsounaki, Loeys & Enzlin(2025)— 日々の欲求変動とパートナー相互作用

mixed-gender 163組(326人、平均年齢30.3歳)を22日間の日誌で調べ、dyadic sexual desireを個人の固定的な特性ではなく、パートナーとの相互作用の中で変動する状態として扱いました。抄録では、日々の欲求が、愛着・性・探索のニーズに関して各パートナーが何を与え、受け取り、得ているかと関連し、女性の欲求はパートナーが報告した愛着的相互作用や、性・探索のニーズへの「応答されているという知覚」と関連しました。実験条件では相互作用を操作する課題も行われていますが、この研究の抄録から、課題が一般的な欲求改善や臨床効果を保証したとは読みません。

原典:PubMed 39254631 / Ghent Universityリポジトリ / DOI 10.1080/00224499.2024.2393378

Johnson et al.(2025)— 頻度と関係満足度のプロフィール

2,101組のmale-female couplesを、二人の関係満足度とカップルの性頻度から潜在プロフィール分析しました。最も大きい群は高満足・頻回(86.38%)でしたが、満足度が二人で食い違うプロフィールも確認されました。この研究はdesired frequencyや二人の欲求差を直接測った研究ではなく、頻度と満足度をSDDと混同しないための隣接研究として読みます。

原典:PubMed 40111794 / DOI 10.1037/fam0001331

自分の状況に当てはめる前の4つの確認

  1. 実際に何が起きているか。 性交の頻度だけか、性行為全体、接触、開始、拒否、満足度も含むのかを分けます。
  2. 本人は何を望んでいるか。 「もっと多く」だけでなく、頻度・タイミング・行為の種類・親密さへの希望を別々に考えます。
  3. 二人の差を測っているか。 一人のactual/desired差と、二人の欲求得点の差は同じ計算ではありません。
  4. 苦痛と同意はどうか。 数値を埋めるための説得や我慢を正当化する指標ではありません。痛み、恐怖、強制、強い苦痛がある場合は、研究の平均値ではなく適切な支援を優先します。

このページは診断や「高欲求側/低欲求側」の善悪を決めるものではありません。差の有無、差の測定方法、本人たちの納得や苦痛を分けて読むための研究ノートです。

このページの限界

  • 紹介した研究は米国・カナダなどのカップルを含み、日本の欲求ギャップの割合を示すものではありません。
  • 研究ごとに、desired frequency、sexual desire、sexual distress、relationship satisfactionの測定が違います。数値を一つのランキングへ統合していません。
  • ESSMのposition statementは、SDDの概念と臨床対応について研究不足と複雑さを指摘し、明確なエビデンスベースの推奨を提示できないとしています。
  • Sansoucy et al.(2026)は地域のカップル327組による35日間の自己報告日誌研究です。幼少期の経験の因果効果、現在の関係での危険性、個人の診断や支援の必要性をこの研究だけから判定できません。
  • Körner & Schütz(2026)のパワーは、関係内の影響力を本人が経験した/望んだ程度を扱う構成概念です。欲求ギャップ、性的同意、強制、現在の安全性の評価とは別であり、「パワーが高いほど性がよくなる」「パワーがあるから同意がある」とは読めません。
  • Prekatsounaki et al.(2025)は、平均年齢30.3歳のmixed-gender 163組による22日間の日誌研究です。日々の相互作用と欲求の関連を扱いますが、実験条件の課題操作を一般のカップルへの介入効果へ拡張せず、性別・関係形態・文化の範囲にも注意が必要です。
  • Park et al.(2026)は、ポッドキャストのソーシャルメディア経由で募集した混合方法オンライン調査です。性欲への心配の頻度を、日本の代表値、臨床診断、原因、治療効果へ拡張せず、actual/desired差や二人のSDDとも分けて読みます。

原典と確認メモ

  1. European Society for Sexual Medicine position statement:PubMed 32192965 / PMC全文 / DOI
  2. 欲求と実際の頻度の差:Willoughby & Vitas(2012)
  3. 二人の欲求差と日誌・縦断研究:Jodouin et al.(2021)
  4. 幼少期のマルトリートメント、欲求・苦痛の日々の変動:Sansoucy, Bergeron & Vaillancourt-Morel(2026) / DOI
  5. 関係内で経験する/望むパワーと性的アウトカム:Körner & Schütz(2026)出版社公開本文 / 大学リポジトリ / DOI
  6. 日々の欲求変動とパートナー相互作用:Prekatsounaki, Loeys & Enzlin(2025)PubMed / Ghent Universityリポジトリ / DOI
  7. 頻度と関係満足度のプロフィール:Johnson et al.(2025)
  8. 性欲への心配、パートナーとの差、正常範囲への不確かさ:Park et al.(2026)PubMed / DOI

選定方法:2026-08-15確認。PubMed・PMC・DOI・出版社の公開記録を優先し、研究設計、対象、測定、限界が確認できるものを採用しました。原典の訂正・撤回確認範囲は研究ハブの選定基準と、内部のsource ledgerに記録します。

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